「ひといちばい敏感な子」を読んでHSCについて考えた(前編)

心理士パパの子育て、教育、対人支援もろもろ雑記帳

こんにちは。

今回はHSC(Highly Sensitive Child:ひといちばい敏感な子)をテーマに私なりの考察を書きたいと思います。この言葉は正式な医学用語ではありませんが、NHKの番組にも取り上げられるなど、ここ数年で急速に広まった言葉です。

twitterなどのSNSでも使用される頻度と影響力が高まっているため、私なりに勉強しようと考えタイトルの本を読みました。前提としてお伝えしておきたいのは私がHSCについて学んだのは(インターネット上の様々な書き込みを除けば)今回読んだ「ひといちばい敏感な子(一万年堂出版)」だけです。

その上で、あくまでこの本を読んで感じたことや考えたことについて、自分の思考整理の意味も込めて書いておきたいと思います。

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「ひといちばい敏感な子」

まずなぜこの本を選んだのかと言うと、この本がHSCの提唱者とされているエレイン・N・アーロン博士(巻末の紹介によると臨床深層心理学の博士だそうです。)による本であること、また日本で最初にHSCについて紹介した本であるとされることです。

私がこの本を読む前に内容として知りたかったことは以下の3つです。

①HSCがどのように定義されていて、どう理解すればいいのか(HSCとは実際何を指し、どんな意味の言葉なのか)
②HSCに関する学術的な研究による裏付けはどのようなものであり、特に神経科学的視点からはどんな知見が得られているのか?
③発達障害との異同や関連性についてどのように説明されているのか?(特に感覚過敏の多いASDとの違いについて)

結論、これら三点の全てにおいて記述はありましたが、私の正直な感想としては「いまいちすっきりしないなあ」という感じでした。このことは、これが専門家向けの学術書ではなく一般の保護者向けの本であるという側面も影響しているかと思います。特に②や③に関しては記述が漠然としていて、どのように理解すればいいのかが見えにくかったです。

こんな感じではありますが、いいなあと思った点と、ちょっとこれはなあと気になった懸念点に分けて私なりの考察をしたいと思います。

「敏感さ」による生きづらさ

この本の(つまりはHSCという概念の)一番の売りというか重要な点は、「敏感さが生きづらさにつながる」場合が結構あるよねという事実に光を当てた点にあるのだと思います。また何らかについて周囲より明らかに敏感(過敏)である場合、それに合わせた対応が求められることも確かかと思います。

これらの主要なメッセージについては、私自身の今までの支援者とのしての経験や学んできた内容と照らし合わせても、頷ける部分も多く、その意味でこの概念によって「これは私の(私の子どもの)生きづらさのことだ」と感じる人がいることは容易に想像できます。その意味でこの短期間でこの言葉が急速に広がったことは理解できるように思います。

そして、敏感さというキーワードからその人のありのままの特性を理解し、それに合った対応をすることで生きづらさが軽減することも多くあるのではないかとも思います。

ただ、こういった新しい概念が生産的な使われ方をする為には、言葉の定義というか対象となる状態像が明確であり、それについての根拠ある妥当な対応策と結びついている必要があるかと思います。その辺は同じく医学用語ではない言葉で広まっている「カサンドラ症候群」と同じ構造かと思います。

カサンドラ症候群について①  基本知識と誤用問題
カサンドラ症候群という言葉があります。この言葉について、発達障害支援を専門とする心理士という視点から個人的に思うところや考えていることを書きたいと思います。このテーマ、私の支援者としての基本的な立場である「脳・神経由来の異文化相互理解」について、とても深く考えさせられるテーマだと思っています。

その観点で考えた時に、(急速にこの言葉や概念が広がっている今だからこそ)この本に書かれていることにいくつか違和感や懸念を感じたことも事実です。ここからはその懸念点について書いていきたいと思います。

懸念点①:「敏感」の守備範囲が広すぎる

私が最初に感じた大きな違和感というか、懸念点は「いくらなんでも敏感(Sensitive)という言葉で表現出来るもの全部を対象とするのは、概念として大きすぎるのではないか」ということです。

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チェックリスト項目の多様さ

例えばこの本のには子ども向け(HSC)と大人向け(HSP)のチェックリストとして、それぞれに23の項目が挙げられています。その項目に含まれる内容には

・予期せぬ事態や変化への敏感さ
・他者の心理や感情、視線への敏感さ
・嗅覚、触覚、聴覚、痛覚など身体感覚への敏感さ
・視覚情報の細部への敏感さ
・自身の感情反応への敏感さ
・(しなくてはいけない)情報の煩雑さへの敏感さ
・化学物質への敏感さ

などが含まれています。


確かにこれらは言葉の上で「敏感」と表現できるものたちばかりかもしれません。ですがこれらは心理学的にも生理学的にも神経学的にも異なるメカニズムによって起きている現象かと思います。もし、これらの敏感さすべてに共通するような何らかの神経学的なメカニズムや認知心理学的な知見などが存在するならば話は別だと思うのですが、私が知る限りそんな知見は存在していないと思われます。また少なくともこの本の中にもそんな記述はなかったかと思います。そのため、これらをごった煮のように一つの概念に押し込めることはあまり生産的ではないように私は感じました。

つまり、概念としての守備範囲が広すぎるように思うのです。守備範囲が広いということは、そこに含まれる子どもたちの特性や状態がとても多様であることに繫がります。そして多様な状態すべてに配慮していくと、対応や関わりを考える時に結局は「一般的な子育てアドバイス」とあまり変わらない話になってしまうリスクがあるように思います。

事実、この本のページの大半を占める親御さんへのアドバイスの中には、HSCでなくても通用するような内容のものも少なくありませんでした。もちろんそれが子育てに役立つ人もいるだろうし、それが駄目というわけではありません。ですがそうなってくるとわざわざHSCという概念を作らなくてもいいのではないかということになってしまうように思うのです。

バーナム効果と拡大しうる定義

チェックリストについてもう一つ気になる点があります。

・しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある
・親の心を読む
・興奮した後はなかなか眠れない

P29 HSCかどうかを知るための、23のチェックリストより一部抜粋

いかがでしょうか?
これらの質問はほぼどんな子どもにも当てはまる内容となっていて、チェックリストにはあまりふさわしくないように思います。この質問に対していいえと答える親があまりいないからです。

こういう誰に対しても当てはまる項目で「わたしのことだ」という錯覚を起こすような状態を心理学用語でバーナム効果といいます。占いなどで「あなたは人には言えない秘密をか抱えていますね」と言うようなものです。人には言えない秘密を一つも抱えていない人のほうがまれなので、大抵の人は「私のことを言い当てた!」となってしまうわけです。

先に紹介した項目はこのバーナム効果を引き起こしかねない内容だと私には思えます。アーロン博士は心理学の博士号を持っているとのことなので、ここに気づかないはずはないと思うのですが、なぜ質問項目がこういう内容になっているのかが私には非常に不可解です。

また、敏感と表現できるものが多種多様に入っており、だいたい誰でも「はい」と答えるような設問がチェックリストとなるHSCという概念には、「容易に拡大解釈することが出来る」というリスクが伴うように思います。敏感だと表現できさえすればどんなことでも、HSCの概念に加えることが出来るからです。例えば、それはもしかしたら提唱者のアーロン博士の元々の意図とは異なった方向性や内容であっても、「敏感」なんだからHSCと、もっともらしく主張出来てしまう、あいまいな概念になってしまうリスクがあります。つまり、恣意的に用いられて悪用されやすい構造ということです。

ASDとの区別の困難さ

守備範囲が広いことの重要な懸念点がもう一つあります。それは既存のすでにある概念との鑑別が非常に難しくなるということです。先に述べたチェックリストでは、私が見る限りASD(自閉症スペクトラム)傾向のある子どもたちも、多くの場合HSCという判定結果となってしまうように感じました。ASDタイプの人たちも強い「敏感さ」を持ち合わせている場合が多くあるからです。

本書には、HSCとASD(本の中ではアスペルガー症候群と記載)の違いについても書かれており、そこでの説明には頷ける部分もあるのですが、もともとのHSC概念のカバー範囲が広すぎるため事実上これらを見分けて区別することが、ほぼ不可能な状態になってしまっているように感じます。つまり概念として重なり合う部分が大きすぎるということです。

これらのことから懸念されるのは、多少なりでも何らかの部分で「敏感さ」を持っている人は、みんな自分や自分の子どものことを「HSC(P)」だと、思おうと思えば思えてしまうということになってしまうことです。これはあまり有効でない言葉の使われ方のように私は思います。

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4つの中核特性

そういったリスクを避けるためには、せめてHSCという概念の中核特性、つまり絶対に外せないこの概念のキーとなる特性が明確だともう少し話は変わってくるのになあと思っていたら、なんと「日本語版の発刊に関して」という本書の巻末に補足事項として書かれていました。

つまりおまけのような部分に書かれていて、もともとの本文中には書かれていなかったのです。私からすると、「最初からそれを書いて〜」という感じではあるのですが、著者自身が「最近」そう説明していると書いていますので、本書出版時点では中核特性に関する考察はなされていなかったのかもしれません。

とにかくそれによると、HSCの中核特性は、D(深く処理する)、O(過剰に刺激を受けやすい)S(感情の反応が強く、共感力が高い)E(ささいな刺激を察知する)の4つだそうです。

なるほど。先のチェックリストよりは遥かにアーロン博士の言いたい概念の輪郭が見えてくるように思います。

しかしながらいくら説明を読んでも、私には最初のDが具体的には何を指しているのかがいまいち理解できませんでした。深く処理するとは、一体何についてどのように情報を処理することを指しているのかが書かれておらず、ただコンセプトとして説明されている印象を受けました。

また、OやEなど、ASDの認知特性と重なり合っているいる部分も多いように感じ、HSC独自の部分があまり明確には理解できにくいなあというのが印象です。ただ、この辺は私の読解力の問題かもしれません。

このあたりはアーロン博士の書いた専門家向けの学術書を読みたいなあと思ったのですが、日本語に翻訳されたものは出版されていないようですね。

さて、今回は1本の記事で書き切ろうと思っていたのですが、気づいたら予想以上に長くなってしまいました。ちょっと気になった点がまだあるのですが、今回はこのくらいにしておきたいと思います。続き、また書きます。


続きはこちら

コメント

  1. […] 私がこの書籍を知るきっかけとなった【「ひといちばい敏感な子」を読んでHSCについて考えた】で、臨床心理士の村中直人先生は、エレイン・N・アーロン博士のHSCのチェックリストはバーナム効果(占いなどによく見られる誰に対しても当てはまる項目を「わたしのことだ」と錯覚してしまうこと)を引き起こしかねやすい内容だと仰られています。 […]

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