理不尽への「我慢の強要」と「学習性無力感」について②

心理士パパの子育て、教育、対人支援もろもろ雑記帳

こんにちは。

理不尽への我慢の強要について、前回の続きを書きたいと思います。

今回は忍耐力とは何か、忍耐力を身につけるために必要なことや有効なことは何かということについて、私なりに整理して書きたいと思います。

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そもそも「強要された我慢」で忍耐力は身につかない

「理不尽への我慢の強要」はやめましょうね、という趣旨のことを言うとかならず一定の割合で返ってくるご意見があります。

「そんなことをすると、我慢が出来ないわがままで自分勝手な人になるのでは?」
「言っていることはわかるけれど、忍耐力は大事だからバランスの問題ですよね」
「我慢するということを学ぶことも大切なのではないの?」

これらのご意見に共通していることがあるのですが、それが何かお分かりになりますでしょうか?

それは「理不尽への我慢の強要が、その人の忍耐力獲得や向上につながる」と考えておられるということです。しかし残念ながら、理不尽つまり強烈なストレス状況に対する強要された我慢では、多くの場合で忍耐力は身につかないのです。このことを理解することは、教育や対人支援、子育てに携わる人にとってとても大切な視点ではないかと私は思っています。

前回に、我慢の強要は「学習性無力感」つまり、極度の諦めの状態を生んでしまうとお伝えしました。でももしかしたら、「それはあまりにもいき過ぎた場合であって、通常の範囲内なら我慢することは我慢強さにつながるんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、実はそうではないのです。

もう一度書きます、「理不尽(強いストレス状況)」への我慢の「強要」は忍耐力向上につながりません。

ここからはそのことを順を追ってご説明したいと思います。

忍耐力の本質は「自分をコントロール」すること

一般に我慢強さや忍耐力と呼ばれていることの中身について考えてみましょう。そもそも我慢強さや忍耐力はなぜ必要なのでしょうか?

それは例えば、
「自分の感情や欲求に流されてしてはいけないことをしてしまう」
「長期的には大きな損になることが分かっているのに目の前の小さな得に飛びついてしまう」
「目標のために行動しなくてはいけない場面で、早々に諦めてしまう」

などということを避けたいと思うからではないでしょか。つまり多くの場合、ただただ何かに耐え忍んで、平気なように振舞うことが出来るようになるために忍耐力が必要なのではないということです。もちろんそういうことが求められるような場面や状況がないことはないかもしれません。ですがそれよりも、様々な誘惑や落とし穴への適切な判断が必要な状況で適切に自分をコントロールすることが求められる、という状況のほうが圧倒的によく出会いますし、人生への影響力も大きいと予想されます。

学術的にこの能力は「抑制機能」とか「実行機能」というような言葉や文脈で研究がなされています。これらは自己統制とか自己制御のために必要な力だと考えられています。つまり忍耐力というのは、「状況に合わせて自分で自分のことを適切にコントロールする力」という、理解をすることが実態に近いということになろうかと思います。

このテーマついては神経科学や心理学など様々な領域で近年盛んに研究がなされている領域です。IQや学力などと比較して「非認知スキル」という言葉の文脈で語られることも増えてきているので、ご存じの方の多いかもしれません。そういった研究の成果として様々なことが分かってきているのですが、その中でも特にはっきりしてきているのが「阻害要因」です。つまり自分をコントロールする力をどうしたら育めるのかは、まだまだ分かっていないことも多いけれど「どうしたら育まれないのか」についてはかなり分かってきているということです。

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前頭前野はストレスに弱い(神経科学的視点)

例えば、脳・神経科学的な知見を見てみましょう。

脳は部位によって役割分担がなされていることが分かっています。この自分をコントロールする力でいうと、そもそもの欲求や感情の担当をしているのは、皮質下と呼ばれる脳の奥(内側)の部位にあると考えられています。そしてそういった欲求や感情を受けてそれらをコントロールする役割をしているのが、脳の表面(大脳新皮質)の前側である前頭前野と呼ばれている部位です。これら二つの役割は人間にとってどちらもとても大切です。欲求や感情が発生しなければ生きていく気力が奪われますし、行動や判断をコントロールすることがなけば危険な行動や不利な行動ばかりをしてしまいます。

そして今回のテーマに直結するのは、前頭前野の働きということになります。つまり、忍耐力を身につけてほしければこの前頭前野の健やかなる発達や機能促進が大切だということになります。

ここで知っておいて頂きたい知識があります。この前頭前野は非常に「ストレスに弱い」という特徴を持っているということです。過度なストレス状況になると、機能低下が起こってしまっていることが知られています。そういったストレス状況による機能低下が前頭前野の発達にどのような影響を与えるのかはまだよくわかっていないことも多いのですが、少なくとも何らかの悪影響を与えるということは確かかと思います。

また、この前頭前野は脳の中でも「最もゆっくり発達する」部位としてもしられています。少なくとも二十歳前後くらいまでは、成長を続けているのではないかと言われています。それはつまり、子どもたちの脳の中でも、良くも悪くもいろいろな体験の影響を受けやすい部位なのだということになるかと思います。

こういった神経科学的な視点から考えても「理不尽(強いストレス状況)」を与え続けることは、その人の忍耐力の向上にとって逆効果であることが分かるかと思います。

重要なのは「自分で決める」こと

もう一つの重要な側面が「強要」という側面です。

前回の記事で、「学習性無力感というものは「非随伴的なストレス刺激」が与えられ続けることによって起きる」とご説明しました。このことはとても大切な視点です。なぜなら、ストレス状況があったとしても「状況変化に対する随伴性」が確保できている場合は、深刻なダメージになる可能性が低くなるということでもあるからです。

もう少し具体的に言うならば、自分の行動に「選択肢」がありその中の「適切な選択」を選び取ることが出来れば「状況は改善され得る」ということが保証されていることが大切なのだということです。これは必ずしも「状況が改善される」ということに重きがあるわけではありません。大事なのは自分が何かをすることが、状況に対する影響力を持っているという感覚です。

「自分自身の判断や行動はこの世界に対する何らかの影響力を持っており、場合によってよくなったり悪くなったりすることはあるかもしれないが、少なくとも自分の選択や決定には意味がある」という感覚を持てるからこそ、人は「我慢する」という「選択」をすることが可能になると考えられるのです。

ここでもう一度「(理不尽への)我慢を強要する」という状況を考えてみましょう。この状況には、「選択肢」も「選択」もありません。つまり、自分で何も決めていないのです。この状態が続くことは「自分をコントロールする力」を育むことの阻害要因になってしまうと考えられます。自分をコントロールする力を育むためには、「自分で決め」そしてその「結果を体験する」ということがとても重要なのです。そして願わくば、「成功体験」としてその循環を経験することが出来ればベストです。ですがここで強調したいのは、「自分で考え、自分で決める」ということの大切さです。自分で決めたことだからこそ、成功も失敗も両方が自分をコントロールする力を育む糧になるのだと思います。

以上、長くなりましたが忍耐力について「自分をコントロールする力」という視点から私なりに書かせてい頂きました。下記にこの領域の良書をご紹介しますので、より専門的に学ばれたい方はお読みいただければと思います。

では!

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