こんにちは。
WISC誤用問題について前回の続きを書きたいと思います。前回はWISCが誤った使われ方をされている場合について書きました。今回は、WISCという知能検査を正しく、有効に用いるために必要となる前提知識について書きたいと思います。
この辺の知識は専門家にとっては当たり前の知識なのですが、当たり前すぎて逆に誰も発信しておらず、一般の方が誤解されておられる場合も散見されるように思います。また残念ながら対人支援職や相談職についておられる方でもWISCについて詳しくない場合、このレベルの理解から誤解されておられる場合もあるように思います。
少しでも正しい理解が広まって、有効な使われ方をされる機会が増えればいいなと思っております。
WISCはそもそも「発達障害の為の検査」ではない
WISCという知能検査、(大人版のWAISも同じです)発達障害の診断時に医療機関で使われることが多いためか、発達障害かどうかを検査するためのツールという誤解をされておられる場合がよくあります。ですがWISCは少なくとも発達障害の検査ツールとして開発されたものでありませんし、WISCの検査結果からだけで発達障害かどうかを診断することも不可能です。もっと言うと今現在単一の検査の結果「だけ」で発達障害を明確に診断できる検査は存在していません。
もちろんWISCから得られる情報に価値や意味があるから実施しているわけですが、WISCを取れば発達障害かどうかが分かるというようなものではありません。だから診断書の代わりとして使えるデータでももちろんないわけです。私個人としては診断や分類のためのツールというより、診断後の「対応」や「対策」を考えるための基礎資料として価値があると思っています。
いろいろな意味で実施負荷が高い
忘れてはいけないのはWISCはいろいろな意味において「負荷が高い」検査であるということです。
まず、実施にだいたい1時間半~2時間程度は必要です。場合によってはもっと長時間を要する場合もあり得ます。その時間ずっと子どもたちは あれやこれやと 文字通り「検査」されているわけです。お子さんにとっては心理的にも体力的にもかなり「しんどい体験」であること必ず理解しておかなければなりません。
また経済的にも負荷がかかる場合もあります。医療機関で保険適応で実施したり自治体が無料で実施しているような場合はそこまでではないでしょうけれど、民間機関が実施する場合1回あたりで万単位の費用がかかることも少なくないでしょう。
また結果として出てくる「数字」が保護者や子どもたちに与える心理的負荷も無視できません。きちんとした説明とフォローがなされているならばまだしも、そういったケアがない場合は数字が独り歩きし非常につらい体験をされることになってしまうことも少なくありません。
数値(IQを含む)は結構変動する
WISCの数値は結構変動します。 変動するとは何年後かにもう一度WISCを実施した時に以前の数字と変化があるということです。 少なくとも変動することはそんなに珍しくはありません。(もちろん大きく変動しない場合のほうが多いですが)
これはWISCという検査と日常的に関わることのある支援者や専門家なら事実としてみんな知っていることだとは思います。ただ誤解がないように言うとあくまで「数字」が変動するということであり、そのお子さんの「知能」自体が大きく変化しているかどうかということとは別問題です。
数値がなぜ変化するのかについての私なりの考えは別記事にまとめてありますので、興味のある方はそちらをご覧ください。
今回の記事で言いたいことは、一回の検査結果の数字 (特にIQと呼ばれる数字) だけで「その人の決定的な何か」を読み取ることはナンセンスだということです。上記の記事にも書きましたが比較的安定しているのは「個人内差の傾向」ですので、その意味でその人の特徴や傾向を読み取り活用することが妥当かと思います。
以上、誤用問題の背景になっている可能性があると思われるWISCについての前提知識についてご説明させて頂きました。WISCについて「診断書替わりとして使うべきではない」「頻繁に実施するべきではない」「実施するなら活用しなければ意味がない」などがなぜなのかをご理解いただけますと幸いです。
それでは今回はこのへんで!
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