WISC誤用問題について① 誤用例のまとめ

発達障害よもやま雑記帳

WISCという学童期、思春期世代の子どもたちを対象とした知能検査があります。世界的に有名で、日本においても圧倒的シェアを誇る知能検査です。正しく用いれば非常に有益なツールであることは間違いないのですが、なにせ「IQ(知能指数)」という強烈な影響力のある数字が出ますので、取り扱いに非常に注意が必要なツールでもあります。

スポンサーリンク

誤った使われ方が広まっている?

そんなWISCについて、特に教育関連の現場で「それは不適切なのではないか」と考えられるような使われ方がされている場合があることが私の耳にも届くようになってきています。ここ数年その傾向は加速している印象を持っていますので、私の知っている範囲にはなりますが、整理の意味も含めて書いておきたいと思います。

前提として私は学校教育に直接関わる人間ではありません。ですのでここに書いたことは私が保護者さんから聞いたお話やTwitterのフォロワーさんから教えて頂いたお話など伝聞情報がソースとなっていることを最初にお断りしておきます。「うちではこうだよ」といった情報についてコメント頂けますと非常にありがたいです。

誤った使われ方の具体例については後に書くとして、ここでは総論を書きます。

結論としてはWISCがまるで「許可証」や「診断書」のように取り扱われている場合があるのではないかと思っています。許可証には2つの側面があります。それは「利用・参加許可」と「排除許可」の2つです。要は「来ていいよ、使っていいよ」か「来ちゃだめだよ、使っちゃだめだよ」のどちらにも使われているということです。
これらはWISCの使い方としては非常に非生産的であり、場合によっては有害ですらあると私個人としては思っています。


村中のWISCに関する基本的な見解はこうです。WISC等の知能検査は人を分類し許可や禁止を与えるものではなく、本来は支援や関わりのための正確で有効な理解を深めるためのツールであると思っています。


WISCの誤った使われ方が広がることによる副次的な弊害として私が強く感じるのは、WISCを「スティグマ製造機として毛嫌いする」「有害で役に立たないないものだと感じる」といった状態になられている教育現場の先生方を大量に生み出してしまっているのではないかということです。これは以下のような誤った使われ方ばかりを目にしていればそのように感じられることも無理はないことだと思います。この記事が少しでも誤解の解消に役立てばと思います。
ここからは誤った使われ方について具体的に考えたいと思います。



スポンサーリンク

誤用例①:全検査IQしか使われていない問題

全検査IQとはWISCの検査全体から算出されるIQのことで、まあ一般的に使われるIQのことです。WISCはこの全検査IQ以外にも沢山の情報が結果として得られるのですが、IQの数字しか見てない、使われていないという状況はかなりいろいろな場所で起きているようです。具体的には、特定の数字より低ければ「支援級に入れる」などという「利用許可証」のような形で使われてしまっている場合や、全検査IQの数字だけを見て「この子には学習は無理」などという判断の根拠として用いられることがあるようです。

この使われ方には大きく2つの面で問題があります。まずそもそも、この全検査IQの数字は下位検査の数値を見ずに解釈をしてはいけない数字だということです。具体的に言うと下位項目の数値の落差が大きい場合は、全検査IQは参考数値としてしか使えないルールになっています。そして対象となるであろう発達障害圏の子どもたちは数値の凸凹が大きい場合が非常に多い。そう考えると多くの場合で、全検査IQでは本来その子どもを評価してはいけないということになります。
もう一つの問題は、全検査IQは支援や関わりの手立てのヒントになりにくいということです。つまり、WISCは実施したが全検査IQしか見ていない状況というのは、そこから「支援や関りの手立てを考える気がそもそもない」状況に等しいということになります。もしくはそれが出来る専門性を有していないのに、検査の実施だけを求めているということかもしれません。

誤用例②:結果の説明がなされてない問題

WISC実施の後、当事者である子どもやその保護者に対して検査結果やその活用に関する説明がほぼなされていないことも少なくないようです。もちろんしっかりとした説明をされておられ、結果を活用されておられる事例もありますが、そうでない場合が相対的に増えてきているように私は感じています。

仕事柄私は保護者の方にお子さんの検査結果を見せていただくような機会も少なくないのですが、検査を実施した機関からしっかりした説明を受けておられない場合もよくあります。そのため、保護者の方自身が検査結果の意味や活用方法についてしっかり理解されておられることはあまり多くありません。私のほうから改めて説明させていただいて「そういうことだったのですね。」「ようやく意味がわかりました」などと仰られることが少なからずあります。

せっかく検査をしたのに、そこで得られた情報がうまく伝わっていないという状況は、適切な使用とは言えないと思います。


誤用例③:WISC実施し過ぎ問題

上記2つとは少し文脈が異なるのですが、WISCを頻回に実施し過ぎているという問題も一部で起こっているようです。WISCという検査は1回実施するとだいたい2年は間を空ける必要があります。何らかの事情で2年空けられなくても少なくとも1年は間を空けるべきでしょう。

その一番の理由は「学習効果」と呼ばれる現象で、何度もWISCをしているうちに子どもたちが課題を覚えてしまったり、検査慣れすることで見かけ上の数値が上昇してしまうことがあることが知られています。ですが例えば、年に何回もWISCを(しかも有料で)実施することを定例化している教育機関があるという話も聞いたことがあります。これがもし事実なら、非常に不適切な使用方法と言わざるを得ないと思います。

以上私の知りうる限りでのWISC事情についてまとめてみました。もし関連情報のご提供やご意見等ございましたらコメントを頂ければうれしいです。
この問題についてはまた続編も書きたいと思いますが、長くなってきましたので今回はこの辺で。





つづきはこちら

タイトルとURLをコピーしました