【良書紹介】今だから読みたい。自閉症当事者本の「古典」とも呼べる良書たち

良書紹介

こんにちは。

久しぶりの良書紹介です。今回の紹介する三冊に共通するのは、著書が自閉症当事者であることと、だいたい20〜30年前に出版されているこの領域の「古典」とも呼べるような本たちであることです。

どれも出版当時、業界的にとても話題になった本たちですので、私も学生時代に一度は目を通していたのですが、原点回帰を大事にしたい気持ちになり、最近にすべて改めて読み直しました。

読み直してみて、今この時代だからこそもっとたくさんの人に読まれるべき本たちであると強く感じましたのでこちらでご紹介させて頂きます。これらの本が出版された当時は「知的障害を伴わない自閉症」についての知識も認識も支援ノウハウも、ありとあらゆる情報が不足していた時代です。そんななかこれらの本たちの存在やインパクトはとても大きかった。なにせ当事者の生の声が書いてあるわけですから。

ただ、逆に言うとこれらの本でしか情報が得られなかった時代でもあります。以前よりはたくさんの情報がある現代だからこそ彼女たちの記述に「ああ、そういうことか」と当時では分からなかったことを理解出来ることもきっと多いと思うのです。少なくとも私はそんな気持ちで読み直しをしました。

また、この10年くらいの間に自閉症のことをお知りになられた支援者、教育者や、パパさんママさんたちなら(きっとそういう人は多いはず)これらの本の存在を知らない人や読んだことのない人もおられるかもしれません。それはあまりにもったいない。今読んでもたくさんのことを教えてくれる名著たちだと思います。

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我、自閉症に生まれて

まずは、自閉症当事者本の元祖、「我、自閉症に生まれて」です。原著の初版はなんと1986年!で、日本語版が1993年に出版されています。

著者のテンプル・グランディン女史は高IQであり、同時に自閉症的特性をてんこ盛りでお持ちの方です。牛の締付け機の開発などでも有名で、畜産機器会社の社長さんでもあります。

本は時系列で幼少期から順に書かれていて(今回ご紹介する三冊ともこの形式で書かれています)、また彼女の自閉的な特性が比較的典型的なものであり、かつ二次障害的な部分が比較的少ないため誰が読んでも理解しやすく、今でも最初に読むべき自閉症当事者本だなあと感じました。

また、グランディンさん自身が論文をたくさん書かれている学者さんでもありますので、ところどころに自閉症に関する専門知識の解説が挿入されていることも、読み手を助けてくれる要因だと思います。

あと、この本に登場するお母さんがとても素晴らしい方と想像できる方で、彼女の社会的な適応と事業的な成功はこのお母さん抜きではあり得なかったのではないかとも感じました。その意味では自閉症の育児本としての側面もある本だと思います。

自閉症だったわたしへ

次にご紹介するのは、ドナ・ウィリアムズさんの「自閉症だったわたしへ」です。こちらの本もグランディンさんの本と双璧をなす、自閉症当事者本の元祖と言える本です。原著が1992年出版で日本語版が1993年に出版されています。話の本筋とはそれますが、原著から僅か一年で日本語版が出ていまして、これはほんとすごいことだと思います。版元の新潮社さん、ほんと素晴らしいお仕事をされたと思います。

話を戻します。

お恥ずかしながら、実は私この本学生時代に一度挫折しています。途中で読むのを辞めてしまったのです。今回改めて読み直してみて、その理由が分かった気がしました。この本を本質的に理解するのはとてもハードルが高いのです。

もちろん当事者の方の一人称での記述なので、難しい専門用語が出てくるとか難解な言い回しが出てくるとかとということではありません。翻訳もとても上手だと思うので、日本語としての意味は分かる。けれど、そこで一体「何が起きているのか」を理解することが難しい。

それはドナさんが、自閉症当事者であるのと同時に虐待的な養育環境での「サバイバー」であることが影響しているのだと思います。例えばこの物語の中に主人公の「別人格」が複数登場します。これは自閉症の特性と言うよりも過酷な環境下における二次障害的な反応であると考えるほうが妥当であると思えます。

その意味ではこの本は、自閉症当事者本という側面もありますが過酷な環境を走り抜けた「ドナ・ウィリアムズ物語」という側面が強い本だと思います。圧倒的な現実感でもって私達に迫ってくるそんな物語です。私達にたくさんのことを教えてくれる名著であることに違いはないかと思います。

ずっと「普通」になりたかった。

3冊目は、グニラ・ガーランドさんの「ずっと「普通」になりたかった」です。原著が1997年、日本語版が2000年に出版されていますので、3冊の中では最も最近の本ということになります。(といってもほぼ20年前ですが)

本の知名度としても、先述の2冊に比べるとあまり知られていない本ではないかと思います。ですが今回の良書紹介はこの本を知ってもらいたくて書いたと言っても過言ではないくらいの名著だと私は思っています。

物語的にはドナ・ウィリアムズさん同様、自閉症特性だけでなく、家庭環境の難しさも抱えて生きておられる内容になっています。私がこの本が名著だと思うのは、ガーランドさんが「自分の感覚や思考」を言語化することがとても上手な方で、いわゆる教科書的な「自閉症の特徴」と呼ばれるものが当事者の主観的な体験としてどういうものなのかを圧倒的なリアリティをもって教えてくれる本だからです。(もちろんガーランドさんの解釈なのですべての自閉症者に当てはまるものではありませんが)

ただ、グランディンさんの本と違って、ガーランドさんは客観的な言葉で解説はしてくれません。つまり、「自閉症の◯◯という特徴が私にもあって」というような補足説明が一切ありません。ただただご本人の主観的な体験や思考たちがありありと描かれていきます。

そのため、この本は読み手の「前提知識」を強く求める本でもあると思います。自閉症スペクトラムについて、ある程度の知識を身に着けたと感じた時に、もう一度読み直すことで何度でも新しい発見を与えてくれる本だと思います。少なくとも私は、今回読み直すことで昔の自分なら気づけなかっただろうなあと思うことがたくさんありました。

以上、自閉症当事者本の古典と呼んでいい良書たちのご紹介でした。男女比で言うと圧倒的に男性が多いとされる自閉症の、古典と呼ぶべき当事者本の著者がすべて女性であることにどんな意味があるのかということにも思いを馳せながら、今回はここまでにしたいと思います。