こんにちは。
このところブログの更新も滞っておりましたが、その理由をようやくみなさまにお伝えできるようになりました。実は2020年の年初より私の初の著書である「ニューロダイバーシティの教科書」の執筆をしていたのです。2020年12月11日、本日が本書の発売日となっております。
今回のエントリーでは、この本に込めた想いや願いなど少し書かせて頂ければとおもいます。
時代がニューロダイバーシティを求めているという想い
私が臨床心理士の資格を取得しての頃、つまり今から15年ほど前はちょうど「発達障害」という言葉が世の中に急激に広まりつつある頃で、今以上に多くの誤解や混乱がありました。私は、公的機関での教育相談やスクールカウンセラーなど、主にお子さんと保護者の方向けのカウンセリングをその頃主な生業としていたのですが、例にもれず多くの「発達障害」のお子さんと出会うことになりました。
そこで直面したのは「面接室の中だけで出来る支援には限りがある」ということです。毎日の宿題が辛くて辛くて泣きながら親子で毎日数時間取り組んでいるケースや、周囲とのコミュニケーションがうまくいかずに傷つき体験を重ね、面接室にもなかなか出てこれない子どものケースなどに出会うたびに、強い無力感を感じ続けたのです。
そこで、この課題感を共有してもらえた仲間とともに「あすはな先生」という、アウトリーチ型の学習支援事業を始めました。いろいろと活動していくうちに、この事業は多様なニーズをもつ子どもたちに、自分なりの学び方を見つけてもらうための「学び方を学ぶ」ための支援活動に収束し、今も関西で3つの教室と家庭教師(オンラインもやってます)の支援活動を続けています。
そしてそういった支援活動を続けているうちに、「発達障害支援者の不足」という大きな壁につきあたりました。これはあすはな先生事業単体の問題ではなく、日本全体の課題だと感じた私たちはあすはな先生事業を通じて得られたノウハウや発達障害に関する専門知を学んでもらうための「開かれた学びの場」として、「発達障害サポーター’sスクール」という事業を始めました。今私は、この発達障害サポーター’sスクールでの活動を通じての支援者の養成、支援を主たる生業として活動を続けています。
そうやって手探りでいろいろな活動をしていく中で、私の中でずっと強く感じ続けた違和感があります。それは「発達障害」と呼ばれる現象を、「障害者問題」というフレームで捉え続けることでは、事態がよくならなないのではないかということです。本書の中にも書きましたが、発達障害(特には法律上の定義における知的な発達の遅れがないか軽微なタイプ)とカテゴライズされる人たちを「文化的少数者」と定義し、「異文化共生問題」というフレームで考えるべき問題なのではないかと、多くの子どもたちとの出会いを通じて感じていたのです。
そんな中で私はこの「ニューロダイバーシティ」という言葉に出会いました。そしたらすでにあったのです。「自閉文化」という言葉が、自閉スペクトラム者自身から語られているという事実を知った時の私の安堵感や興奮は今でも忘れることが出来ません。発達障害という言葉や概念がこれほどまでに流布した今、時代はニューロダイバーシティを求めている、そう強く感じたのです。
金子書房とのお仕事という僥倖
そういう思いを感じながら、でも市井のいち心理士でしかない私に出来ることは少なく、発達障害サポーター’sスクールでの講座や講演、SNSや本ブログでの発信など出来ることを続ける毎日でした。そんな中です。詳しい経緯は省きますが、金子書房の編集者様より「ニューロダイバーシティの教科書」を書かないかというお誘いを頂いたのです。これは本当にありがたいお話でした。
金子書房さんは、心理学系の学術書を主に出版されておられる会社で、心理学を学ぶ人ならば知らない人がいない、私もよく本を買わせて頂く、そんな歴史ある業界では有名な出版社さんです。著作という意味では全く何の実績もない私の書く本を、しかも単著で出版されるというリスクを負って、「ニューロダイバーシティの教科書」の企画にGoと言っていただけました。その背景には、金子書房さん自体が「時代に合わせて変わらなくてはいけない」という柔軟な発想と危機感をお持ちだったからだと、企画が通った後で教えて頂きました。実際、オンライン心理検査やNOTEでの情報発信など、学術系出版社さんとしてはとても先進的な取り組みをされておられますので、興味のある方はご覧いただければ思います。
「ニューロダイバーシティの教科書」に思いを込めて
そういった幸運もあり、「ニューロダイバーシティの教科書」は世に生み出されました。思い返せば2020年は本書を生み出す「生みの苦しみ」に明け暮れた1年だったように思います。
私が本書に込めた思いやメッセージを、本書のあとがきから一部だけ抜粋してご紹介したいと思います。
今自分たちがよい,素晴らしいと思っている人の
在り方は,これから先の未来でもずっと変わらずよいものなの
か? 本当にこのままで良いのだろうか?
正解など見つかりはしないのかもしれませんが,その問いは
とても大切だと思うのです。そう考えると,私たちにできることはその人の内側に存在す
「ニューロダイバーシティの教科書」あとがきより
る様々な特性を良い悪いの評価抜きに正確に理解し,その人の
特性に合った環境を提供する,もしくは自分自身でその環境を
見出したり作り出したりできるようになってもらう,というこ
となのだと思います。まさしくそれはニューロダイバーシティ
視点での対人援助や教育そのものなのではないかと思うので
す。
本書が、脳や神経由来の多様性が尊重されることが「当たり前」の社会の実現に向けて、ほんの少しでも役に立ったり、きっかけになれたりすることを強く願っております。
多くの方のお手元に「ニューロダイバーシティの教科書」が届き、ご一読頂けますととてもうれしく思っております。ご一読頂けましたら、ご感想、ご意見などお気軽にお寄せくださいませ。
金子書房様の本書紹介ページです
支援者さま向けのセミナーも実施致します