渾身の社会課題提起本『〈叱る依存〉がとまらない』の”はじめに”を全文公開します

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こんにちは。

『〈叱る依存〉がとまらない』という本を出版させていただくことになりました。

「だれもが生きていきやすい社会をめざす」ために渾身の力を込めた、私なりの社会課題提起です。この本に込めた想いや願いをお伝えするために、出版元の紀伊國屋書店さまに「はじめに」を全文公開するご許可をいただきました。是非ご一読いただき、この問題についてともに考えていただけますと幸いです。

はじめに

この本は、誰かを「叱る」可能性のある、すべての人のための本です。

知っていただきたいのは、〈叱る依存〉とでも呼ぶべき身近な現象です。「叱る」という行為には叱る側のニーズを強く満たす側面があり、人は、叱らずにいられない依存的な状態におちいってしまうことがあります。しかも、「叱る/叱られる」ことはあまりにも身近な出来事なので、どんな人でも〈叱る依存〉の当事者、もしくは目撃者となりえるのです。また〈叱る依存〉には、個人の行動だけでなく、社会のさまざまな問題や制度にまで影響をおよぼす「社会の病」としての顔もあるようです。〈叱る依存〉の問題と向き合うことは、個人のよりよい生き方を考えるだけでなく、よりよい社会を作っていくためにも重要なテーマなのです。

本書では、ありふれた「叱る」という行為の本質を、科学の知見や社会で起きている出来事をもとに見つめ直すことで、〈叱る依存〉を回避していくためのヒントをお伝えしたいと思っています。

この本のスタンスや趣旨をより深くご理解いただけるよう、私がなぜ本書を執筆するにいたったのかについても説明しておきます。私は臨床心理士・公認心理師で、発達障害とカテゴライズされることが多い神経学的に少数派な方たち(ニューロマイノリティ)への支援や、その領域における支援者養成を生業の1つにしています。そのため、発達障害の当事者や保護者、支援者とのかかわりが、本書に色濃く影響を与えています。

本書の背景の1つめは、私が貪るように学んだ脳科学や認知科学の知見です。発達障害と呼ばれる現象を正確に理解し、適切な対応をするためには、脳や神経とそれに基づく情報処理(認知)のあり方を学ぶ必要がありました。それは私にとって、発達障害だけなく人間そのものを理解する助けとなる知識でした。特に「誰かを罰することで、脳の報酬系回路は活性化する」という研究報告に衝撃を受けたことが、〈叱る依存〉という言葉を生み出すきっかけとなりました。こういった脳科学の視点に、私の専門である心理学の知見を加えて本書は構成されています。

もう一つの大きな背景は、発達障害と診断されている人たちは大人も子どもも、「叱られる」ことが非常に多い人たちだということです。それは、すぐ近くに「叱る人」もまたたくさんいることに他なりません。「叱る/叱られる」というテーマは常に私の身近な関心事であり、「叱る」を単純に否定することも、逆に素晴らしいことだと褒めたたえることも、どちらもあまり役に立たない現実をたくさん見てきました。必要なのは、否定でも礼讃でもない「叱る」とうまくつきあう方法でした。そしていつしか、「叱る」に関する科学的な理解や対応のノウハウは、あらゆる人に必要な知識なのではないかと思うようになりました。

こういった背景により、本書は科学的な裏付けを重視しながらもできるだけ易しい言葉で、わかりやすくお伝えすることを心がけています。それと同時に「叱る」に対する社会の認識をアップデートしたいという、非常に高い目標を掲げた本でもあります。この本が一人でも多くの人にとって、「叱る」とのかかわりを見つめ直すきっかけとなれば幸いです。

「叱る」にまつわる理解の旅路、どうか最後までよろしくおつきあいください。

〈叱る依存〉がとまらない はじめに(紀伊國屋書店 2022)
※出版前の原稿情報のため、出版時に多少の変更がなされている可能性があります  

【出版元の紀伊國屋書店さまのサイトはこちら】

“叱る依存”がとまらない
「叱る」には依存性があり、エスカレートしていく―その理由は、脳の「報酬系回路」にあった!児童虐待、DV、パワハラ、加熱するバッシング報道…。人は「叱りたい」欲求とどう向き合えばいいのか?つい叱っては反省し、でもまた叱ってしまうと悩む、あなたへの処方箋。

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