こんにちは
ひさしぶりの良書紹介です。
普段はジャンルにわけて数冊の本をご紹介するスタイルで記事にしているのですが、今回は一冊だけ「子ども六法」という本についてご紹介したいと思います。ちょっと類書がないのと、こころから「子育て家庭の一家に一冊」というレベルでお勧めできる内容なのでちょっと特別編な感じです。
こども六法
「こども六法」というタイトルの本が、弘文社さんから2019年8月30日に出版されました。恥ずかしながら、私がこの本の存在に気づいたのは出版された後なのですが、出版前からクラウドファンディングで相当話題になっていたようです。
私の手元にあるのは、9月30日発行の第4刷!!出版不況と言われるこの時代に、僅か一ヶ月の間に三回も増刷されたということかと思います。すごいことですよね。
この本を読んで一番最初に感じた感想は「感謝」でした。よくぞこの内容、クオリティの本を世に出して頂けたと感じました。改めて、この本の出版にご尽力されたすべての方に感謝と敬意を表したいとお思います。それくらいの本だと思います。
本に込められた想い
この本からは、これからの時代を生きる子どもたちへの強い愛を感じます。どのような想いで本を出版されたのかについては、私の言葉なんかより著者本人が書かれた言葉を読んでいただければと思いますので、巻末の謝辞より一部引用させて頂きます。
『こども六法』は「法律を誰でも読める文章に直す」という、あまりにも単純な発想の本であるにも関わらず、今まで誰も制作しませんでした。
中略
しかし『こども六法』は誰よりもいじめの被害に遭っていた当時の私が必要としていた本でした。当時の自分に届けるために、たとえ必要としている人が当時の自分しかいなくても、たとえ従来は不可能とされてきた一冊だったとしても、必ず完成させてみせる。
中略
この本は「必要」を情報拡散や金銭的援助を通じて形にしてくださった方々と、「不可能」を乗り越えるために惜しみない助力を頂いた方々の想いと知恵の結晶です。
巻末の謝辞 『こども六法』を一緒に作ってくださった方々へより抜粋
この本は、単純に子どもに法律を学ばせようというような、知識獲得が目的のためのものではないのだと思います。この本の主たる目的は、「いじめ」など様々な不条理から子どもたちを守るためであり、また子どもたちが持つ様々な「権利」を世に知らしめるための本なのだと思います。
子どもたちに分かりやすいメッセージたち
こういった視点で作られた本なので、その内容は徹底的に子どもたち目線に貫かれており、とても分かりやすいものになっています。
私が「このテーマで子どもたちと話ししてみたいなあ」とか「確かにここは法律として定められていることを伝えたほうがいいなあ」と感じたものをご紹介しますね。
「子どもは生きるための世話をしてもらう権利がある」
「親は子どもの成長に責任があるよ」
「目に見えないこころの傷も償ってもらうことができる」
「気軽に死ねって言っていない?」
「子どもだからといって謝るだけでは許されない」
「人に迷惑をかける権利は認められないよ」
などなど。
こういったテーマを、根拠となる法律ともに理解できる、話が出来るという意味において、本書はとても優良な「教育コンテンツ」でもあるかと思います。もちろん子どもたちが自分の権利を知り、また自分の心と体を守るための教育コンテンツです。
道徳よりも人権の教育を
私がこの本にとても強く賛意を感じるのは、根底にあるであろう教育への思いに共感している部分があるからのように思います。それは一言でいうなら、人権教育の不足への警鐘です。
例えば、(この本で伝えられているように)近年「いじめ」と表現されていることの多くは明確な「犯罪」です。しかもかなり重い罪に問われる犯罪も含まれているかと思います。そして犯罪であるなら、日本には日本の、犯罪に対する法律があり本来それらのルールのもとで対応され、その際にそれぞれの人権が守られなくてはいけません。そして現代社会において人権、つまり人としての基本的な権利は、憲法や法律、国際条約の中に明記され、表現されています。
しかしながら日本の教育場面においては、こういった法や人権について学ぶ機会はとても乏しいように思います。その代わりに実施されているのが「道徳」の時間ではないかと思います。道徳の授業が駄目だとは思いませんが、重要度でいうなら明らかに「権利」や「ルール」に対する教育のほうが大切だと私は考えています。
具体的に言うと、いじめと呼ばれているもの中には、「暴行罪」「傷害罪」「脅迫罪」「強要罪」「器物破損罪」「窃盗罪」「名誉毀損罪」などの多種多様な犯罪が包括されています。
それぞれがどのような基準に基づいて罪に問われ、そしてどのような罰則規定が存在しているのかについて、きちんと理解していて即答出来る人が日本の中にどれだけいるでしょうか?多くの子どもたちはそんなことを学ぶ機会に乏しいように思います。「いじめは良くない」、「いじめをやめよう」と子どもたちに標語のように伝えるより、法や権利について学ぶほうが大切なのではないかと私には思えます。
その意味で、この本は本来大人こそがまず読むべき本なのではないかと思います。「こども六法に書かれている内容くらいのことは大人なら当たり前に知っていて理解し、それを実生活のなかで意識しながら生活している」、そんな社会にすら今はまだ遠く及ばないように私には思えるからです。
ASDタイプの子どもたちへの相性のよさ
最後に本書について、少しだけ私の専門分野に関連するお話をさせて貰えればと思います。
それはASD(自閉症スペクトラム)児との相性のよさです。
ここで私の言うASDは、医学用語としての「障害名」としてではなく、脳や神経とそれに由来する認知のタイプのがASDタイプのお子さんという意味で思って頂ければと思います。
もう少し具体的に言うと、私が「論理親和性が高い」タイプと表現しているタイプの子どもたちへの教育や支援に、本書はとても重要な役割を果たしてくれると思っています。
法律という、明確に言語化され社会実装されているルールブックを、分かりやすくかつ納得感高く学ぶための教材という意味において、現状では本書を超える正確さと充実ぶりのものを私は知りません。
この辺は語りだすと長くなってしまうのでまた機会があれば文章化したいと思います。今回はあくまで良書紹介のコーナーですので、今日のところはこのへんで。
「こども六法」、一家に一冊は必携にと心からおすすめ出来る良書となっております。
では!