発達障害について診断や支援がなされる時に知能(発達)検査が使われることが多くあり、多くの場合そこではIQ(知能指数)という数字が算出されます。この数字は「取り扱い注意」劇物な側面があるので、そのことについて私なりにお伝えしたいことを書きたいと思います。
発達検査は何を測定しているのか?
まずですね
現存するどんな知能検査でも「理論上」知能の全部は測定してません。
心理学的に言うと知能をどう考えるかはかなり古くからの研究テーマなのですが、それの現在最も信憑性が高かろうと目されているものにCHC理論というのがあります。これは知能研究をメタ研究した成果なので、まあ過去の研究の総まとめみたいな位置づけで、知能のいろんな要素を網羅的に整理したものくらいに思っていただけばと思います。
もし仮に、このCHC理論が知能というものの全体を網羅出来ていると仮定すると、その理論の項目すべてを網羅するような検査が存在すればその検査は知能全体を測定できているのかもしれませんよね。でもこれが存在しないわけです。(少なくともきとんと標準化された検査としてはないはずです。もし開発されてたら謝ります…)
なので先ほどの結論となります。
『「理論上」知能の全体を測定している検査は存在しない』
これ実は前提情報としてとても大切で、どの検査でも出てきたIQはその人の知的な能力の「ある側面」を切り出したものということになります。なので、その検査で知的能力のどんな側面を測定しているのかが大切なんです。そこを抜きに全体を表す数字だけで物を言うのはあまり意味がないというよりも弊害が大きいように私は思っています。
知能検査の数字をどう活用すべきか?
現場で検査結果にに触れることが多い人なら、もうみんな知っていることだと思うのですが知能検査のIQに相当する数字って大きく変動する場合が実は少なくないんです。あがったり、さがったりします。
さあ私たちはこの数字の変化をどう捉えればよいのでしょうか?
私個人の見解は、「影響する要因が多すぎてよくわからない」です。
検査者の上手い下手も影響しますし、その日の子どもの体調かもしれません。子どもの発達スピードが変化したのかもしれませんし、子どもが検査の答えを(前回の分を)暗記していたのかもしれません。もしくは医療者や支援者、教育者の介入で知的能力が急激に伸びたのかも。
言い出すときりがありません。
ここで言いたいことは、検査項目全体の平均値である「IQ」は支援現場では使いにくい概念と数字であるということです。
この数字に一喜一憂することは、是が非でも避けなくてはいけません。
逆に、比較的安定している数字の傾向があります。それは「個人内差」です。要は得意な項目と、苦手な項目の傾向はそんなに大きく変化することは少ない傾向があるかと思います。
つまり、知能検査はその人の知的能力が高いか低いかを見る為というより、何が得意で何が苦手かを把握するために使用するほうがはるかに生産的だということになります。
知能自体の概念が根本から見直されるかも?
これは完全に私個人の見解かつ、希望的観測ではありますが、脳・神経科学の近年の発展により「人間の知能」といものをどのように捉え、どう測定するのかが根本から揺らぐ可能性が大きくあると思っています。
今までの知能の研究は、脳や神経の働きを「仮定として置いて」考えてきました。かつては脳や神経の働きを精緻に測定したり研究する方法がなかったためそれは仕方がない部分があったわけです。認知科学や心理学の領域ですね。パソコンに例えるなら、今までの知能研究はパソコンの本体(CPUやハードディスク)ではなく、OS(windowsなど)やアプリケーションの性能から人間の知能を定義し、測定していたことになります。
しかしこの20年くらいで脳や神経の研究方法は飛躍的にその質を高めています。そこで「人の知的な能力は脳や神経のどんな具体的な働きによって規定されているのか?」ということに取り組める可能性が高くなってきているのではと、私は期待しています。
脳、神経科学と心理学の高度な融合で知能を再定義し、それに見合った検査方法が開発されると今ある検査とは全く違った知能の理論や検査が生まれるかもしれません。
そうなることで、もっと支援現場におかるアセスメントの精度が高くなり、より効果的な支援がお届けできるのではないかと願っています。
以上、知能と検査についてでした!